むかしむかし、ある寺に、源哲(げんてつ)という、和尚(おしょう)がやってきました。 村の人たちは、新しい和尚さんにあいさつしようと、畑仕事を終えると寺にやってきました。 「こんばんは、和尚さん。・・・?」 「はて? どこにも、おらんようじゃが」 と、いいながら和尚をさがすと、なんと源哲和尚は、お堂の屋根の上で酒をのんでいました。 これには、村の人たちはすっかりあきれて、 「ぼうずのくせに、昼間から酒をのんでござる。ちいと、かわっとるとちがうか、あの和尚」 「ちいとどころじゃねえ。あんなやつ相手にしとれんわい。けえろうや」 と、みんな帰ってしまいました。 村の人たちからは相手にされなくなった源哲ですが、うら山にすむ子ダヌキたちには、すっかり気に入られてしまいました。 「おもしろそうな和尚さんだで、遊んでくれるかもしれん」 と、子ダヌキたちは、人間の子どもにばけて、源哲の前に出ていきました。 「和尚さん、なにしよるんじゃあ。おらたちもなかまに入れてくだせえ」 子どもずきの源哲は、ニッコリして、 「いいとも、いいとも。それじゃあ、読み書きを教えてやろう」 と、それはいっしょうけんめいに、子ダヌキたちに教えてやりました。 子ダヌキたちは、大よろこびです。 「和尚さん、お月さまって、どう書くんじゃ?」 「おらにも、教えてくれろ」 そのうちに子ダヌキたちは、たいそう読み書きが上手になりました。 源哲と子ダヌキたちが、たのしそうにしているのを見た村の子どもたちが、なかまに入れてほしいとやってきました。 「えんりょはいらんぞ。なかまは多いほどはげみになるでのう」 こうして村の子どもたちもいっしょに、手習い(てならい→お勉強)をするようになったのです。 そんなある日のこと、村の子どもたちは、近くの川でとった魚を源哲にさしだしました。 「おらたちにゃ、これくれえしか礼ができねえんだが、酒のさかなにしてくれろ」 その日の帰り道、子ダヌキたちは、集まって相談しました。 「気がつかなんだのう。こんなにいろいろ教えてもろうたのに、なんのお礼もしなかったな」 「そうだとも、おんは返さんとな」 「そういえば、和尚さんは、雨の日に酒を買いにいくのが、なんぎじゃというとられたぞ」 それからというもの、子ダヌキたちは人間の子どもにばけて、雨の日の夕ぐれにはかならず酒屋まで酒を買いにいき、源哲にとどけるようになりました。 ところが酒屋の主人が、酒を買いにくる子どもたちのようすが、どうもおかしいと思っていました。 「きっと、あの子どもたちはタヌキにちがいない。きょうこそは、しっぽをつかんでやる」 そうとは知らない子ダヌキたちは、いつものように、光る石で作ったお金を持って、酒を買いにきました。 ところが酒屋の主人が、いきなり戸をバタン! としめたので、ビックリした子ダヌキたちは、しっぽをひょっこりだしてしまいました。 「やっぱり、おまえらはタヌキじゃったんだな。このいたずらダヌキめ!」 酒屋の主人に、ひどいめにあわされてからは、子ダヌキたちは、二度と人里にすがたをあらわさなくなったそうです。 「あの子たちがタヌキじゃったとは。わしをよろこばそうとしたために、かわいそうなことをした」 源哲はかなしみました。 でも、このことで村の人たちも、ようやく源哲のやさしい人がらを知るようになり、親しくいききするようになったそうです。